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東京高等裁判所 昭和58年(う)1084号 判決 1983年9月19日

主文

本件控訴を棄却する。

当審における未決勾留日数中二〇日を原判決の刑に算入する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人澁川孝夫名義の控訴趣意書記載のとおりであるから、これを引用する。

所論は、要するに、原判示第二の事実について、被告人は当該斧を他の場所で自動車内に持ち込み、原判示場所まで右自動車で運搬しただけであるのに、原判決が被告人において原判示日時、場所に停車させた普通乗用自動車の運転席足元に原判示斧一丁を置いてこれを携帯したと認定したのは、事実を誤認しかつ法令の解釈適用を誤ったもので、いずれも判決に影響を及ぼすことが明らかである、というのである。

そこで、検討すると、原判決が挙示する関係各証拠を総合すれば、原判示第二の事実の認定及びこれに対する法令の適用は、いずれも正当としてこれを是認することができる。

すなわち、関係各証拠によれば、被告人は先に協議離婚したA子とよりを戻して同居していたが、同女の男関係を邪推するあまり、同女の経営するスナックBのカウンターでもこわせば、営業ができなくなって男客も来なくなると思いつめ、右用途に使用する目的で実兄宅道具置場から原判示斧一丁を持ち出し、他人に見とがめられないようにこれをセメント袋の紙に包んで自己所有の普通乗用自動車の運転席足元に置き、自ら右自動車を約一〇間運転して、約四キロメートル離れた原判示のスナックB前路上に至り、原判示時刻ころ同所に右自動車を駐車させたことは明らかであり、右駐車させた時点において本件斧は前記の状態のままであって、被告人がこれを使用しようと思えば直ちに使用することが可能な状態にあったことも明らかである。

かように、自宅以外の場所で、ある程度継続して所定の刃物を直ちに使用し得る状態で自己の身辺近くに置いた場合は、銃砲刀剣類所持等取締法二二条にいう携帯に当るものと解すべきであって(最高裁昭和五八年三月二五日第三小法廷決定、刑集三七巻二号二三〇頁参照)、被告人が本件斧を携帯したと評価することになんらの妨げはないというべきである。

所論は右携帯とは本人が握持する場合に限るようにもいうが、当該規定の立法趣旨からすれば、握持する場合に限らず、本人の身辺近くに置いて直ちに使用し得る支配状態にある場合を除外すべきいわれはなく、被告人の行為が運搬しただけであるから携帯に当らないという主張も、運搬する行為が同時に携帯の要件を充す以上携帯に当るというのを妨げないと解すべきであるから理由がない。所論は被告人が自動車内では本件斧を使用する目的がなかったともいうが、スナックBのカウンター破壊の目的は斧持ち出しの当時から前記駐車の時点まで持続していたと認めるのが相当である。所論引用の大阪高裁昭和四九年一二月三日の判決は、本人自身は使用の意図がなく、外国にいる赤軍派支援の目的で牛刀二丁を郵送すべく、これを厳重に包装したうえ航空書留郵便で発送しようとして、居住先から郵便局まで持ち運んだという事案について、直ちに牛刀を使用し得る支配状態になかったとして携帯には当らないとされたものであって、本件とは事実関係を異にするから、なんら前記認定の妨げとなるものではない。(右牛刀の事案では、仮りに牛刀を使用しようとしても、厳重な包装を解いてこれを取り出すには、多少の手間と時間を要するのは自明の理であって、直ちに使用し得る状態にあったとはいえないのに対し、本件の場合はただ斧を紙に包んだだけで手の届く所に置いてあったのであるから、直ちに斧として使用し得る状態にあったと認めるに十分である。)

そうすると、原判決の原判示第二事実の認定及びこれに対する法令の適用は正当であって、所論のような事実誤認及び法令適用の誤りはないから、論旨は理由がない。

よって、刑訴法三九六条により本件控訴を棄却し、刑法二一条により当審における未決勾留日数中二〇日を原判決の刑に算入することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 海老原震一 裁判官 和田保 杉山英巳)

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